大阪地方裁判所 昭和40年(ヲ)2671号 決定
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〔決定理由〕1 異議申立の事由第一、二項の事実(編注、執行吏が不作為の仮処分命令を公示するに際し、公示を命ぜられていない「被申請人は本件家屋の工事を続行してはならない。」なる文言を独断で記入し公示した事実)は、本記録上明らかであり、<証拠>をあわせ考えると、前記執行吏が仮処分執行一〇日後の同月二一日に本件執行現場へ点検のため臨場したところ、仮処分の公示板が無断で取り外され、附近に放置されたままになつていたこと、そして工事続行禁止命令の公示のことで執行方法の異議の申立がなされ、相手方より、公示板が取り外されたままになつていることにつき、異議申立の利益を欠ぐものと主張したところ、翌四一年三月八日ごろにいたつて右公示板が、再び、本件未完成建物にかかげられるにいたつたこと、かようにかかげられたことについては、執行吏又は債権者(すなわち相手方)側の者たちの所為によるものとは考えられない事実が認められる。
相手方は、公示板が放置されたことによつて仮処分の公示としての効力を失い本件申立の利益を失つたかのように主張するけれども、かかる事実があつたとしても、仮処分に基づく執行吏保管・工事続行禁止の効力は、公示書又は公示物件の撤去にかかわりなく、依然として効力を保有するわけであるから相手方の右主張は、それ自体、理由がないというべきである。
3 執行吏が、公示の命令がないのに独断で、工事続行禁止の公示をしたことは前認定のとおりであるが、この違法が、仮処分執行自体にいかなる影響を及ぼすかにつき考える前に、仮処分を発令するにあたり、債務者の占有を解いて執行吏保管に移した旨の公示命令に附随して、不作為命令の効力を確保する方法として、不作為命令の公示を命令することが許されるかどうかについて考えてみよう。
民訴法は、仮処分の方法につき、七五八条一項で「裁判所ハ其意見ヲ以テ申立ノ目的ヲ達スルニ必要ナル処分ヲ定ム」と規定しているので、公示が事実上の効果しか生じないとしても、公示することが、法律上又は事実上の事由によるにせよ仮処分の実効をあげるために必要性が存すると認められるかぎり、執行吏保管の公示など公示命令をなしうる根拠の認められる場合、当該基本命令に附随又は関連する不作為命令の効力を確保する方法として、不作為命令の公示が許されると解するのが相当である。けだし、仮処分は、特定の債務者に向けられたものであつて、第三者による当該仮処分の実効阻害はいわゆる目的の達成に関係がないというように狭く「目的」をとらえるならば、占有移転禁止の仮処分における第三者に対する公示すらもその点において、否定されなければならなくなるのみならず、執行吏保管の公示など公示をなしうる根拠の認められる場合当該基本命令に附随又は関連する不作為命令の公示をも許すことは、仮処分の対象物件に関心をもつ又はもつであろう第三者にも紛争の存在を警告し、第三者が、合理的には望むはずもない当事者間の紛争に入り込むのを防止しうる利点があるからである。
4 本件につきこれをみるに、執行吏が本件仮処分執行後一〇日程して点検のため臨場したところ、執行吏保管等の公示板が、何人かによつて取り外されたことは前認定のとおりであるから、仮処分の命令裁判所としても、執行吏保管の公示に附随して工事続行禁止の公示を命じうる裁量の余地もないこともなかつたというべきである。
5 以上認定の事実関係のもとにおいては、執行吏が問題の文言を、公示板に工事続行禁止の命令が発令されていることを関係者に注意する意図で記載したのであることを推察するのにがたくはないが、いかなる注意事項といえども、公示書又は公示物の中に、記載しうる文言は、仮処分命令において公示を命ぜられた事項に限るわけであるから、問題の文言の記載は違法であつて、同執行吏の事務を引継いだ大阪地方裁判所執行官において取消抹消しなければならない。
つぎに、右の違法が、仮処分執行に及ぼす影響についてであるが、上叙認定の経緯、事柄の内容・態様・方法などからみて、本件仮処分執行行為を取消さねばならない程重大な事項とはいいがたく、そして公示なるものは、事実行為であるから分離して取消除却することも可能であるというべきである。したがつて、本件では、執行法上の救済としては、執行吏が仮処分の範囲を逸脱してなした公示板中の「被申請人は本件家屋の工事を続行してはならない」なる文言記載部分を、適当の方法で、取消抹消することをもつて足りるというべきである。(本井巽)